作曲のメッセージを最初に、そして一番大事に伝えるべき相手は誰か(芥川作曲賞を演奏して思ったこと) - 2012.08.27 Mon,14:41
なぜかリハーサルは埼玉県の志木まで通っていましたが、毎年この時期に行われる、作曲の「芥川賞」の本選会が、昨日の昼間、東京六本木のサントリーホールで行われました。
編成は、毎回orchestraのもの。
そして演奏は、僕が一番お世話になることの多い、新日本フィルハーモニー。
僕は、celesta(この楽器のことについて知らない人は、このblogの該当記事を参照のこと)で、一昨年優勝した山根明季子さんという人の委嘱作を弾きました。
そうです。このコンクールで優勝するとその二年後のコンクールの曲の演奏の前に新作を演奏して貰う権利も得るのです。
曲は、琵琶協奏曲みたいな形式でした。
なかなか繊細な曲で、かなりの沈黙が間に挟まれていた曲でした。
題名は、譜面に書いてあるとおりだと、“Harakiri Maiden”だから、「腹切り乙女」ということになるのでしょうか。
譜面には日本語は書いてありませんでした。
なぜ、腹切りで、乙女なのかとか、琵琶の役割については、リハーサル中一度も触れられなかったので、残念ながら曲の背景や内容に着いての事は全く知らないで弾きました。
きっと作曲者や指揮者は演奏家は楽屋でプログラムを読むものだ(そこにはきっとこの曲についての作曲家の説明が書いてあるに違いないが)と信じて疑ってないから説明しなかったのか判りません。
しかし、演奏家の楽屋にプログラムなんてほとんど廻ってこないし、よしんば、あったとしても、人数分来るとも思えないからみんな忙しいから読まない人の方が多いし、そもそも、そういう曲についての大事なことを当日に知る事に何の意味があるのかと痛切に思います。
あるいは、これだけ大人数で演奏するorchestraという形式の場合、一人一人は部品に過ぎないから全体としての内容を細かく知る必要があるのは指揮者だけで良い、と考えたのかなあ。
芝居をかじった人間からすると、そういう一番大事な事が末端の演奏家に対してリハーサルの初日に語られない、こういう新作の音楽の練習の常識には何時も首を捻ります。
聴きに来てくれた人に演奏後会って、腹切りと乙女と琵琶の関係について、プログラムに書いてあったことを言われ、そこで初めて知った事があり、びっくりしましたが、演奏後に知るというのは、何とも情けない話です。
だから、練習中に、「この音はもっと鋭く」と言われてみんな、抽象的に鋭く弾くのですが、それと「Harakiri Maiden」という題名との有機的な意味の結びつけは、たぶん誰も理解しないで弾いています。
文学的な題名を付けるなら、最初にその題名と譜面に記されている音との関係を明らかにすべきだと思うし、そもそも、なぜそこに独奏楽器として琵琶が居るのかという説明も、この曲の場合は特に、一番最初に必要なはずだと思うのですが、音楽の練習は、常に技術的なカウントや音の出し方、今回の様に特殊奏法だらけだと、それの質疑応答ばかりで、演奏したとは言え、聴いた人に何を質問されても、自分の部分を間違えないで弾く事にしか終始してなかった感想しか残りません。
たしかに三日も練習したけど、この曲に与えられた時間が一時間しかなかったとはいえ、そして初演だからとはいえ、こんな事で良いのかなあ。
繰り返しになるが、orchestraというシステムの中では、指揮者が判っていれば良いことなのか。
それを説明する時間はないということなのか。
「もっと子供がふざけて弾いている様に」とか「ここは、もっと自分を聴いて欲しい、という気持ちで、がんがん弾いてください」とかのアドヴァイスが作曲家からあったのだけど、それは飽くまで演奏家の領分に任すべき奏法云々の事であって、その根拠と題名との関係が語られないから、というか、この曲のstoryを全く理解してないから、「自分を聴いて欲しい」という気分には全くなれないのです。
だって、芝居の世界だったら、腹切りさせられるのは、誰で、どんな理由で、とか考えてからじゃ無いと芝居なんかできないわけで、この場合、なぜ乙女が腹切りさせられる運命になったかという疑問がそもそもあるわけですよ。
それと、子供がふざけているように、ということがどうしても僕にはむすびつかなかった。
たぶん、storyを把握していたら、作曲家に言われる前に、みんなprofessionalなんだから、どんな場所だって簡単にどういう気分で音を出すかたちどころに理解できるると思うのですが、最後までそんな気分にはなれないというより景色が見えないから、書いてあるとおりフォルティッシモという記号に従って大きく弾いていただけでした。
だから、眼の前に作曲家が居るのに、まるで作曲家との対話は、彼女の考える音響がそこに実現できているか否かを査定して貰うのがリハーサルで、彼女の考えをこっちに知らしめようとしないから、作品に対しては何回も弾いている間に様々な感想を持つことになるけど、なにも作曲家や作曲家がこの題名に込めた様々な事についてシンパシーが残らない。
もしかしたら、その説明は、指揮者が我々にすべきだったのか、、。
改めて書くけど、この曲に対して僕は(storyは最後まで知らなかったが音響的には)悪い感想は持たなかったが故、なおさら残念に思う。
面白い響きは随所にあったし、もう一回演奏すると言われても喜んで参加するが。
作曲のコンクールや指揮者のコンクールで、毎回思うことがあります。
コンクールの結果には反映しなくても良いから、「演奏した人の採点」というのを聴衆に公開すべきだと思うのです。
有能な指揮者や作曲家であるかどうかは、譜面を解読できて、耳の肥えた作曲の専門家と、それを聴いた人だけが決めるものではないはずです。
文学と違い、作品が直接読者に触れるのでは無く、音楽というのは、演奏家というものすごく大きいフィルターを通すジャンルである以上、この手の審査に演奏家の感想が反映されないのはなぜなのか、何時も思います。
たしかに、演奏家には悪意のある感想を、現代音楽に対して持って居る人も少なくないでしょうが、作曲家や指揮者が何かを表現するのに、それを演奏家にどう伝えているのかの実際は、譜面や、審査員席や客席に居ては絶対に判らない事の方が多いはずです。
リハーサルが朝の11時からで、僕は最初のこの曲だけだったので、11時半には開放されていました。
開演が15時からなのでどうしようかと思い、炎天下の外にでましたら、アークヒルズの何時もの滝の所を見て、一瞬涼に包まれました。
この場所は、この記事でも撮りましたね。
そのままふらふらと千代田線の赤坂駅(TBSのビルがある方面)に坂を上り、何の目的も無く、気づいたら地下鉄に乗り、表参道駅まで行っていました。
どうしたものかと思案し、無謀にも、そこからまたサントリーホールのある、六本木のアークヒルズに向けて炎天下を歩き始めました。
後でまた別の記事で沢山写真を出そうと思いますが、cityscapeを撮りながら、猫が暑さで苦しくなったときのように口を開けてよろよろと、これから本番だとは思えない汗だくになりながら、頭の中では、少しでも血糖値を減らすのだと念仏のように唱えながら歩いていました。

リハーサルの時(志木のホールで)撮ったらとんでもないピンぼけになってしまいました。
でも邦楽で、こういう髪の毛の色をされている方もとてもユニークなので、驚きと共に、こういう方が出てくると、今までに無い客層も関心を持つので、面白いと思いました。
しかも、このピンぼけは弾いている時ではありませんでしたが、なんか流し撮りみたいで(爆)迫力を感じちゃったのでこのまま出します。
もちろん、外見だけでは無く演奏もすばらしかったですよ。
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「太宰治、芥川賞、佐藤春夫云々」のニュースで
賑わっているようですが、
下記の歌はいかがでしょうか?
審査への リトマス試験紙 異次元航路
不正と出たのは 芥川作曲賞
このところ、パクリ問題で騒がしかったり
芥川賞を結果的に持ち上げる太宰手紙が発見されたりで、
人心をいたずらに振り回す情報が
飛び交っているが、それを鎮めたければ
ロクリアン正岡の「異次元航路」を
ユーチューブで鑑賞されるのが、いろいろな
意味で適切のではなかろうか?
2015.9.8
「不可知の何様」を信奉するLM拝