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    岡田陽先生のこと - 2009.12.17 Thu,20:47

    人生には分岐点となる出会いや事件が何回かあるものだ。

    僕の大学時代の専攻は演劇である。

    意外に思う人も多いだろう。

    僕の通常のアイデンティティは、ピアニストであり、作曲もするからだ。
    でも現在Musicalの仕事がメインになっている状況を考えると、当然の帰結だとも言える。

    ただし、この大きなアイデンティティの先の、たとえて言えば、枝分かれした先にある「ジャンル」ということになると、その時期、その場で遭遇した共演者やお客さんによって僕の所属しているジャンルは様々に思われる。

    ミュージカルでしか会ったことの無い人は、実際昨日も共演者から「准さんは、ずいぶんクラシックがお好きですよね」と言われたくらいだ(爆)

    最初にあまりクラシックっぽくない仕事で会った人にとっては、この世界から湧き出た職人だと思われるし、
    きっと20年以上関わっている横浜のヴァイオリン教室の生徒の親たちにとっては、僕はヴァイオリンの伴奏が専門だと思っているだろうし、
    トランペットの伴奏で全国にて演奏した時に会った人たちは僕は金管、それも特にトランペットの音楽に通暁しているピアニストだと思っていることだろう。

    どれも正解だけど、それだけじゃない。


    僕が高校生の頃、その次の進路を決めるに当たって、自分の限界に絶望し、人生をどうするか本当に迷ったあげく、出した結論。

    特に音楽家の家に育ったという素性からすると、今現在そうだったとしてもほとんどの人がやはり同じ事を言うと思うけど、
    周りのほとんどの人はその決断は間違っていると反対したり、恐ろしく心配してはくれたけど、僕は玉川大学の文学部(今は芸術学部になったらしい)の演劇専攻に行ったのだ。

    僕の真意をはかる興味の無い人たちからは、白石准は音楽を諦めたと学校で噂になったものでした。
    (そこそこピアノを弾くという存在感は学校の中であったからね)

    何年か前、そこで出会った師の一人が亡くなったことを記事にして今の自分の活動との関わりと感謝を再確認したのだけど、もう一人、僕が今音楽を仕事にして、かつ、曲を弾くことだけではなく、劇的なるものと多く関わるようになったことについて、直接影響を及ぼした人として、岡田陽(おかだあきら)先生という存在を忘れることはできません。

    先月末、闘病の末、お亡くなりになったという知らせを受け、今やっている作品の稽古終了後お通夜に駆けつけましたが、僕が経験したどのお通夜よりも集まった人間の数と行ったら、きっと4桁を楽に超えている状態だったと思われました。

    きっと、ネットで検索すると多数のかつての教え子たちが、この時期岡田先生に対してきっと何らかの感謝のメッセージを発していることを目にすることが出来ると思います。

    演劇教育ということを戦後まもなくからお亡くなりになる寸前まで心血を注いだ教育者でした。

    僕にとって、半分自分の人生に絶望しながら(自分が期待していた技術の習得がメンタルの異常なまでの弱さでいざというときに何も発揮できない自分に、こうなったらピアノの無い世界で修行するしかないと決心していた)何も知らない演劇の世界に飛び込んでみたところ、入試の面接で、

    「役者になるつもりは毛頭無く、音楽家になるつもりでいるのだが、音楽的に必要なものを今身につけるより、それを表現するために必要な心の強さが欲しいので、美術や文学、そして父親のやってきた「作曲」ではなく、演奏家と同じ「リアルタイムで舞台で身体表現すること」という状況、芝居、舞踊、を自分にとって唯一無二のピアノという唯一無二の「楽器」なしに4年間回り道をして修行してみたい」

    みたいなことを行ったら、他の先生からは、「それはきちんと音楽大学を出てからでも遅くないか」とも言われました。

    それまで黙っていた岡田先生が、いきなり「おもしろい」と発言され、それに続いて驚くべき事に、
    「なんか弾いてみろ」というのです。

    自分にとっては、その朝、母親から「私は、絶対今日、あんたピアノ弾かされるはめになる予感がするわよ」と言われていたので、その偶然の一致に驚きながらも、そら来たと、不意打ちの困惑は無く、しかも、その時自分で練習していた曲が、武満徹さんの、作品だったので、場の空気を考えればどうかとは思ったけど(爆)、弾いてみた。

    それが岡田先生との出会いだった。
    そして、面接のあと、一介の受験生だった僕に、先生が寄ってきて、「もし入学できたら、面白いやつを一人紹介するよ」とまで言われたのでどきどきしたものだ。

    そして、数ヶ月後キャンパスに行ったときに出会ったのが、宮本亜門だった。

    それで、岡田先生の演出で、ミュージカル大好き少年だった亜門と、今山猫合奏団で共演している楠定憲(彼との出会い、そしてその後に出会う高山正樹とは未だに山猫合奏団で共演し続けているし(爆))なんかと、Pippinという作品をやったのが、今思えば現在進行中の仕事につながっているといえば本当にそう思う。

    ミュージカルに出会って、これはとてもすごく面白いジャンルだと思った。

    しかしその時点での自分は、これは、この同級生たちとの一生の思い出を作ったというあくまでクラブ活動の喜びみたいな評価でしかなかった。

    将来的には「普通の演奏家」になるつもりでいたし、回り道をしているその当時の課題の数々は、内面的な部分で音楽の専門のコースに進んだ人たちが学び得ない事を吸収するつもりでいただけで、演奏の仕事を自分が手にすることができるかどうか、その方が本当はその時の立場で考えればよっぽど難しいことであることが興味の最優先だった。

    ミュージカルの専門学校の人たちが目指すように、それに特化したことへの興味や、実際に仕事でそれがメインになることになろうとは、全くといって良いほど思ってなかった。

    岡田先生はミュージカルというジャンルを僕の前に連れてきてくれたけれども、僕にとって一番の想い出は、楽器を離れたところで、身体表現を学ぶことという興味そのものの、題名通り、体を動かしたり詩の朗読、即興劇など、様々なことを実践する岡田先生の「身体表現」という授業が、お通夜で先生の遺影を拝見したとき、僕が音楽にアプローチするやり方にもっとも影響を与えた時間だったと改めて想い出した。

    演劇専攻を選んだのは、「楽器を離れたところで」様々なことをするはずだった、、。

    もちろん、僕も(通らないこの声で)様々な詩を朗読したり、(クラスで一番固い体にむち打って)舞踊公演に出たりしたものだが、その授業の中で、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のバルコニーの場面がエチュードの一つに採用されていて、先生は、硬直したり緊張したりする初心者の学生に、イマジネーションを作りやすいように、動くときに様々なジャンルの音楽を聴かせながらやることが多かったように思うけど、僕が授業を受けているときにも、その場面をDebussyの「月の光」のレコードをかけながらやっていたものです。

    そのうち、「そうだ、白石、今度はおまえが生で弾け」と要求された。

    弾き出すまでの意識と、弾き始めたときの意識のギャップに自分で驚いた。

    それまで演奏というのは、自分で弾くもので、それを誰かに聴かせることでしか完結してなかったわけで、年相応に、「自己顕示の意識満々(爆)」で弾くものだから、結局他人が聴いていると必要以上に緊張し、楽しむどころか、「どう、上手く弾くか(下手に弾かないかとも言える)」ということが頭の優先事項になりがちだったのだが、自分で弾いた音楽が、客ではない役者たち(もちろんただの素人学生ではあるけど)の気持ちを作る「情景」とか、ある意味見えない舞台装置になっていると感じた瞬間、かつて無いほど、気楽に、そして気持ちよく弾いていることに気づいたのだ。

    そりゃそうだ、設定が月夜の晩だから、自分の中に具体的に景色が見えているところでその気になって弾いているわけだから、、、、。

    たまたま覚えていた曲だったせいもあるけど、この日にピアノの前に座っていたこと、横で愛をささやき合っている二人の同級生たち、スタジオの照明、まだ鮮烈に覚えています。
    聴かれてるけど、観られてない感覚というのかな、この気楽さって。

    それから後、実際に実習公演などで、自分の作曲したもの(ミュージカルではなくても)を生演奏で弾いていたときも、かつてのピアノの前に行くと全身硬直しているような状態からはほとんど解放され、数十年後、ミュージカルやそれに類する自作のもろもろや他の人の作品で弾く場合もなんか、ある特殊な感覚というかそれの原点はあの授業のあの日のことからつながっているように思います。

    結局それ以降、他の先生も僕のこのスキルを積極的に利用し、「楽器を離れて」どころか、そればっかりの任務と実習に明け暮れて、これも自分の計画にはなかった劇音楽の作曲に目覚めてしまったことを思うと、人生計画に首尾一貫なんか掲げないで来た風に吹かれて手に掴めるものを掴んだ方がかえって面白いとも感じるようになったよ。
    自分がイメージすることなんて、経験値の中でしか想像できないわけで、そんなことより他人が関わってくると自分でも思ってない自分を発見できたりするわけだから、、。
    だから、役者の経験って一回くらいしかなかったんだな、これが、、。

    しかしながら楽曲を普通に演奏家として舞台で弾くときの心の強さについては、芝居の中で弾くほど、その後も悪戦苦闘の連続であったので一つができたら全部が上手く行くというものでもないものです。

    先生のお通夜のおかげで何年、あるいは何十年ぶりに会った同窓生との楽しい会食中、その懐かしい顔を見ながら、二十歳前に強烈に自分の人生の転換点を意識したことが、たまたま自分が生業としようとおもったことが今そのまま続けているのでなおさら、人生は点じゃなく、つながった線だと改めて実感したのです。

    同級生の中には演劇とは違う職業についているひとも多いけど、話をすると、どこか、「表現力」を活かした仕事に就いている人がおおいかんじがしました。
    酒を飲みながら、自分があの歳に芝居をしたことがこんなに今の自分を支えているという表明を聴いたりすると、その彼の人生のある一部分を自分たちで共有した誇りまでも感じました。

    今は仕事を通じて人と出会い、それで友情が生まれ、はぐくむ事がおおいのですが、やっぱり学生時代の時間の共有感の密度が濃いとそれなりに簡単には切れないものだと思い、旧友に会った癒しは翌日からのハードなリハーサルも全然苦痛にはなりませんでした。

    先生に僕が今やっているような現場で仕事をしていることを一度も観てもらえなかったことは、やっぱりちょっと後悔してるけど、先生の知らないところで先生から得たものが、何十年の時を超えて発酵し、やっとその時判らなかったことが少し体現できるようになったのかもしれないと思うと、教育というのは、即効性が問われるものではないのだなと、今まで何度も挫折してきたけど、やめないで良かったと思う次第です。

    でも、どんどん、師匠たちが天国に行ってしまう歳になったんだな。

    考えたら、高校の時の担任の先生も、僕が予想外の進路をとる決心をしたときに、すごく心配してくれて、でも廊下を歩いていたら、同じ学年の違うクラスの先生が、呼び止めて自分で書くのもためらうぐらい恥ずかしいほどの表現で、僕のとった決心を評価し、応援のメッセージをくれたことを思うと、なんで他のクラスの僕の心配までしてくれるのか、僕は良い学校、師匠に恵まれているのだと実感せざるをえません。
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    (新しい記事には極力付けるようにしていますが、全記事検索にはほど遠い状態ではあります。
    少しずつ古い記事にもtagを付けていく所存であります。
    検索しやすいように日本語でtagを付けていましたが、URLにすると、メールなどで、日本語の部分を認識してくれないことが判りましたので、今は日本語で書いた方が良いと思われる地名や固有名詞以外のものは英語に書き直していますが、勿論一辺には出来ないので同じ言葉が日本語と英語で別れているという妙な事になっていますが、追々統一したいと思います。)

    My Works

    iTunes Storeで配信されている、僕の作曲した作品です。
    両方とも宮沢賢治の物語を元に「語りと音楽」による編成で作曲されています。
    “どんぐりと山猫”については、ここ
    “セロ弾きのゴーシュ”についてはここ
    に補足説明があります。
    これらの作品の生演奏のオファーも随時ここで受け付けています。

    二つの作品のうち、“セロ弾きのゴーシュ”はこの真下の欄にあるようにCDとしてもリリースしました。

    お断り

    commentやtrackbackは記事そのものに直接関係ない(記事が取り上げていることに関連があったにせよ)と僕が判断したものは断りなしに削除させていただきますし、頻発する迷惑投稿を拒否するために認証後反映する時もありますのでご容赦。

    PhotoはものによってClickすると写真共有サイトや、そのまま大きいサイズで見ることができます。

    様々なテーマについて投稿することにより将来的には一種の白石准の百科事典のような「作品」に成長していくことを期待しています。

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