職人の仕事@調律師新井吉一 - 2012.11.24 Sat,12:27
そういう人達が居ないと、音楽会も芝居も成り立たない。
特に、Piano弾きにとって最も重要なスタッフが、調律師という存在だ。
「今日の演奏を褒められたとするならば、半分以上、この人のお陰。」という実感を持つ職人技を持った調律師にステージやスタジオで出会ったとき時は本当に幸せになる。
ピアノ弾きは特殊な例外を除き、演奏会場に自分の楽器を持っていけない。
演奏が成功するためには、最上の楽器と、究極の職人技を持つ調律師、そして、その楽器を響かせる最良の空間、そして、最良の楽曲、そして、演奏する技術とインスピレーションが必要である。
幸運な事に、僕は何人ものすご技の調律師に全国各地で出会う運に恵まれてきた。
その思い出だけでも、いくつも記事が書けてしまうくらいだ。
その中でも、家のPianoや、演奏会場でがPiano弾きとして最も長くおつきあいしているのが、この記事の写真に出ている、新井吉一氏だ。
若い頃は、ウィーンのベーゼンドルファー(Bösendorfer)社に学び、幾多のconcertで内外の名ピアニストとの仕事を経てきた人だ。
たぶん僕はこの人とは、20代後半から今に至るまで30年近い付き合いがある。

上下の写真は、調律するときに最も必要な道具だけど、この道具は、なんと持つところがカーボン製でとても軽い。
この人の何が一番すごいかというと、昔から、「対価に見合った時間で仕事をする」という発想がないことだ(爆)
まあ職人という事からすると、限られた時間の中で仕事をするというのがまず第一に評価されるべき事も間違いでは無いだろう。
実際、彼が演奏会でチューニングをするときは、その枠で仕事をしてきたわけだが、僕の家だけにとどまらず、訪れた家で仕事をするときは、時に半日以上も納得するまで仕事をしてしまって、まあ状況に寄ってはとても「うざがられてしまう」ことは否めない(爆)
もう今はそんな事はない事だけど、付き合いが長いからこんな例外的な事も昔あった事に、昼間に来て作業していたのに終わったのは深夜1時近くだったことだってある(爆)
しかし、仕上がった楽器は素晴らしい状態になる。
調律師というのは、音楽家以上に一匹狼であり、皆さんも知っておいた方がいいが、ある調律師の前で別の調律師の賞賛などは、もってのほかである(爆)
僕は調律師が他の調律師を評価する言葉を発するのは聞いたことがない。
(この新井氏は結構他の人の技術を褒めているがたぶん例外的だ。)
演奏家には穏やかに接してくれる調律師ではあるが、そりゃ同業者には牙をむくくらいの対抗心を感じることも多々あります。
考えたらもっと僕の最も大事な「共演者達」の写真を撮っておくべきだったと思います。
偉大な調律師のお陰でどれだけ楽しんで弾けたかという思い出の数は指で数えられるものではないからです。
僕の主催のconcertでは、特に知り合いと言って良い調律師にやって貰った時には、programmeに必ず調律師の名前を記述します。
誰の目にも留まらないかも知れないし、僕が口頭でもしかしてそこにまだいらっしゃる調律師を紹介しても調律師は困惑するだけでそんなつもりで仕事をしているわけではないとおっしゃるでしょうが、つい、先日の録音の時にも、やっぱり録音の間中隣の部屋で控えて下さった調律師のおかげで僕が二日間ずっと気持ちよく弾けているわけだから、やっぱり少なくとも僕は常に調律師には最大の尊敬と感謝を持って仕事をしていきたいと思います。
それと、この新井氏、実は筋金入りのアマチュア・カメラマンで、LEICA(もちろんフィルム専門)遣いなのです。
あと、驚くべき事にこの人は白石准というPiano弾きの影のプロデューサーだった時期もあります。
彼が紹介してくれた演奏場所は夥しい数にのぼり、元イ・ムジチのコンサートマスター、アゴスティーニ氏と引き合わせたのもイ・ムジチのチェンバロの調律をしていた彼でした。
ちなみに、アゴスティーニ氏もカメラマニアなのです。(僕と練習しているときは、一回弾くとカメラをいじりながらそれについて喋るのが15分、そして思い出したようにまた弾くという連続でした(爆))
すばらしい調律師には何人も出会ってきましたが、「持続的に」仕事の斡旋までしてくれた調律師は彼をおいてほかにいません。img height=
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